南アルプス深南部・不動岳

■深南部のヘソ■

南アルプス深南部のヘソとも言える不動岳を登った。
鎌崩(かまなぎ)ノ頭から西北西に伸びる尾根、
私は鎌崩尾根と呼んでいる、を登り、
天上の楽園、鹿ノ平から不動岳を往復し六呂場山を経て
P1740西北西尾根を下る周回縦走だ。

夕陽と競うように、
戸中川林道の臨時駐車スペースに車を滑り込ませた。
深南部、それも平日とあって当然ながら1台も車は停まっていない。
本来、戸中川林道のゲートまで車で入れるのだが、
林道の法面が崩れたため少し手前でストップを強いられたのだ。

臨時の駐車スペース
臨時の駐車スペース

単独の車中泊は無敵だ。
迷惑にならない限り気兼ねなく駐車できて雨でもへっちゃら。
車内スペースも余裕でコンロを使って調理が出来る。
ただし、
寝床の準備に手抜きをすると翌朝身体のあちこちが痛い。
今回もズボラした後悔と共に目が覚めた。

出発して500mも歩くと崩れた岩が道に散乱していた。
いずれも小さなもので量も大したことはない。
その気になれば1日で片が着くに違いない。
・・・が、こんな山奥の林道だ、誰がその気になるだろう?

山レコだったかな?
車を置いた場所まで下山してきたら、入山の時は通れた林道が崖崩れで不通。
やむなく車を置き延々と林道を歩いてなんとか帰宅。
林道開通後ようやく車を回収出来た。
そんな報告を読んだのを思い出した。
5月連休の記録じゃなかったろうか?

春先は雪融けで地盤が不安定だからありがちなことだ。
くわばらクワバラ。

法面の崩壊現場
法面の崩壊現場

右岸から戸中川本流へ合流する沢を2本やり過ごすとゲートが見えた。
白倉権現のゲートと似たような造りだ。
同じ営林署の管轄だから当然といえば当然だが。
駐車場所から25分ほどだった。
林道は下って戸中川の西俣に沿うものと東復を辿るものに分かれている。

ゲートの前で思案した。
周回縦走の起点をどちらにしようか?
計画書通り六呂場山経由にするか、逆に鎌崩ノ頭から回るか。
結局、帰りの林道歩きを短くしようと思い鎌崩尾根に取り付くことにした。
元気なうちに退屈な林道歩きを済ませておこうという作戦だ。

戸中川林道ゲート
戸中川林道ゲート

深南部では2時間や3時間の林道歩きにへこたれてなんかいられない。
妄想を巡らせながら黙々と歩いた。
山であれこれ考えながら歩くと良いアイデアが浮かぶことが多い。
問題は下山した時にそれを覚えているかどうかだ。

林道は凹凸や落石が少なく、私の軟弱なフィットでも走れそうだった。
四分六歩道と黒法師岳の取り付きを確認しつつ
2時間半ほどで鎌崩尾根の取付きに辿り着いた。
取り付き確認がひと苦労じゃないかと気を揉んでいたが杞憂だった。
立派な登山口の標識が迎えてくれた。

鎌崩尾根取付き
鎌崩尾根取付き

頼りない踏み跡が疎林の急斜面をジグザグに登って行く。
何回かターンを重ねると林道は遥か下に遠ざかった。

30分も登らないうちに悪場が現れた。
踏み跡が崩れてなくなっていた。
重荷の足元は今にも崩れそうで心もとない。
バランスを崩して落ちても死ぬことはないだろうが、
ヤル気が失せることは確実だ。

最初の難場
最初の難場

幸い難所は1ヵ所だけで、
その後はしばらく平穏だが力勝負の急登一辺倒になった。

1,424mの独標付近まで登ると、
尾根の形状が失われ鎌崩ノ頭へ登る尾根を捉えるのが難しくなった。
思い出したように現れる赤布はてんであてにならなかった。

深南部では「尾根筋を辿る」が原則だ。
思い切って葵沢側に出ると案の定尾根に乗ることができた。
修行のような登りが再び続いた。
踏み跡は概ね分かりやすかったが、
独標1863付近では笹が深く注意を要した。

鎌崩尾根上部
鎌崩尾根上部

標高を上げるにつれ、
丸盆岳から黒法師岳にかけての稜線がはっきり見渡せるようになった。
その名の如く黒々と聳えて格好が良い黒法師岳。
3年前の晩秋に登山講座の生徒と登った楽しい想い出がよみがえった。
ちらっと鎌崩も荒々しい姿を覗かせた。

黒法師岳
黒法師岳

鎌崩ノ頭は程よく木々に抱かれた快適な泊まり場を提供してくれた。
不動岳側に少し下ると広い雪田が残っていた。
ここまで残雪は殆どなく、今年は降雪が少なかったことが窺えた。

時間の余裕があるので、
翌日の長い行程を考え鹿ノ平まで歩を進めたかった。

しかし、鎌崩ノ頭からの下りがどうも判然としない。
ここはと思う辺りを覗いてみるがとても急に見えるのだ。
焦ることもないと腹をくくり、快適な鎌崩ノ頭で夜を過ごすことにした。

雲ひとつない夜空を赤味がかったスーパームーンが煌々と昇って、沈んだ。
ざわつく風の息の間に鹿の鳴き声がもの悲しく響いた。

鎌崩ノ頭のテントサイト
鎌崩ノ頭のテントサイト

地図では変哲もない尾根のよう表されて鎌崩ノ頭の下りだが、
現地で見ると、崩壊壁の縁に沿う急な斜面だった。
もちろん踏み跡は確認できなかった。

そこで傾斜の緩い東側から残雪伝いに尾根の側面を巻くように下った。
氷化した雪が残っていたのでアイゼンを着けた。
この山行中、アイゼンを使ったのはこの下りだけだった。

薄い踏み跡を拾い鹿道を辿り鹿ノ平に続く細い稜線を進んだ。
空母の甲板のような鹿ノ平が次第に目の前に広がった。

不動岳と鹿ノ平
不動岳と鹿ノ平

この広々した草原で遊ぶ鹿たちを見たいと思った。
草原を渡って行く風がすがすがしい。

不思議に広い草原だった。
不動岳を目指す誰もがここで星空を眺めたいと思うのは無理もない。

鹿ノ平
鹿ノ平

鹿ノ平を横切って不動岳への尾根に向かった。
不動岳の登りは、なだらかで登りやすかったが、山頂までとても遠く感じた。

やったぜ、不動岳の頂上ゲットだ。
深南部でよく見るダンゴを串に刺したような形の山頂標識はなかった。
合地山、光岳、信濃俣、大無限山。
素晴らしい眺望だ。

やったぜ、不動岳
やったぜ、不動岳

鹿ノ平へ下る途中、真っ白に雪をつけた光岳が眩しかった。

光岳
光岳

鹿ノ平から独標1799とのコルへの下りは分かり難い。
崩壊壁の縁に沿って小尾根を下るだけで良いと単純に思っていたが、
100mほど下ると小尾根は不明瞭になってしまった。
はっきりした踏み跡に従って下るが、どうも鹿道らしい。
これほど踏まれているということは、迷い込む登山者が多いのか。

おかしいと気づいて登り返した。
下り過ぎたのは標高差にして50m位だった。

方向を再確認し、今度は磁石の針に忠実に下った。
踏み跡のない急な草付きを50mほど下ると次第に尾根がはっきりして、
独標1799とのコルに立つことが出来た。

独標1799から六呂場山の間は険しいナイフリッジが続いた。
完全な岩稜ではなく所々太い木が生えているので緊張感は薄いが、
疲れた重荷の時は転落注意だろう。

六呂場山
六呂場山

六呂場山の有名な看板に見参。
誰が置いたものか?

自らへの戒めか?

帰宅してから永野さんの著書を読み、
六呂場山から北西に伸びる尾根にも踏み跡があることを知った。

六呂場山の看板
六呂場山の看板

六呂場山の下りは危険注意と聞いていた。
踏み跡があるし大したことはなかろう。
侮っていた。
しかし、激下りに加え足元は不安定、
一歩踏み出す度に足場がガラガラと音を立てて崩れた。

14時半にP1740に着いた。
このまま下ると尾根の下部で陽が暮れるだろう。

踏み跡の薄い深南部の尾根をヘッドランプで下るのは危険だ。
天気が崩れる気配はなさそうなので、
予備日を使ってP1740でもうひと晩泊まることにした。
こういう場合、単独行は実に臨機応変だ。

P1740のサイトも鎌崩ノ頭に劣らず快適だった。
今夜もスーパームーンに見守られて更けていった。

P1740のテントサイト
P1740のテントサイト

穏やかな幅広の尾根は下るのには楽だがルート取りに神経を遣った。
地図と磁石をポケットに仕舞う間がない。
遠いと思っていた矢筈山だったが、予想外に短時間で着くことが出来た。

矢筈山
矢筈山

矢筈山の下りも短いけれど不安定でかなり急だった。
塩梅良く生えている立ち木をホールドにして慎重に下った。

下る途中、登ってくる単独の登山者にばったり出会った。
年配の男性は矢筈山まで日帰りだという。
自分のことはさて置き、
よくもまぁ、こんな地味で苦しい山に来る人もいるもんだと感心した。
もちろん先方も思わぬ出会いにはとても驚いていた。

P1412からの下りは要注意だった。
地形図には、P1740から下るこの尾根に登山道は記載されていない。
追加の現地情報も持っていなかったので、
P1412から西へ独標821への尾根を下った。
この尾根には薄いがはっきりした踏み跡が独標まで下っていたのだ。

P1412の標石
P1412の標石

独標821までは難なく下れた。
独標821は放棄された林道の終点だった。
工事の際に使われたのだろう壊れた作業小屋が遺棄されていた。
西俣林道まで標高差にして100mほどの地点だ。

安全に下れそうな所を求めて等高線に沿ってトラバースした。
倒木を乗り越えたり、くぐったり。
しばらく我慢のトラバースを続けた。
やがて我慢も限界に達し、倒木の転がる急斜面に踏み込みぐんぐん下った。
順調に下り、林道まで3mという所で垂直の擁壁に阻まれた。
飛び降りてしまおうかと思ったが、落差があるし重荷である。
ここで脚を挫いたらとんでもない。
冷静になり擁壁の切れ目を探してトラバースした。
重荷なので体感4級のクライムダウンを強いられたが、
なんとか無事に林道に降り立つことが出来た。

さらに30分程下ると、
カーブの道端に水道小屋があった。
P1412への登山道の取付きだった。
P1412から下った標高1,000m付近で南西に進路をとれば正解だったようだ。

水不足で昨夜からろくに食べていなかったが、
一刻も早く車に戻りたかったので水だけ思いっきり飲んだ。

水道小屋
水道小屋

すっかり満開になった桜が春の盛りを告げている。
満ち足りた気持ちで3日間の縦走を反芻しながら車に向かった。

すっかり満開
すっかり満開

日  程:2020年4月5日~8日(水)
参加者:まるめの
タイム:
4月5日(日) 快晴
 戸中川林道ゲート手前の駐車スペースまで入り車中泊
4月6日(月) 快晴
 駐車スペース7:00--戸中川林道ゲート7:25
 --鎌崩尾根取付9:55~10:00--鎌崩ノ頭15:00(TS)
4月7日(火) 快晴
 TS 6:30--鹿ノ平8:10~8:30--不動岳9:20~9:30
 --鹿ノ平10:00--六呂場山13:20--P1740(TS)14:40
4月8日(水) 快晴
 TS 6:30--矢筈山8:40~8:45--P1412 9:15
 --水道小屋12:00~12:20--駐車スペース13:00

by まるめの

この記事へのコメント