沢登り:懸垂下降

■懸垂下降はアブナイ■

夏は沢の季節だ。
今年の梅雨は長かったけれど、ようやく明けそうな気配だ。
そこで、
沢登りに必須の技術、懸垂下降の手順をまとめてみた。

沢を遡行中に滝やゴルジュを高巻く場合、「小さく」が原則だ。
しかし、
大高巻きを強いられクライムダウンで沢に戻れないことだってある。
そんな場合は懸垂下降の出番だ。

懸垂下降の手順は概ね次のようになる。
余談になるが、
沢登りに携行するロープの長さは40m~50mを勧める。
特に沢に慣れていないメンバーがいる場合は長いロープが良い。
大きな滝がない沢でも、
万が一の場合には長いロープの方が役に立つからだ。

懸垂下降は失敗すれば重大事故を招くアブナイ技術だ。
手順をきっちり確認して先に進むことが重要だ。

★懸垂下降の手順
1. 支点構築
2. ロープのセット
3. 下降
4. ロープ回収

1. 支点構築
支点を構築する際はセルフビレイ(註)をとるのが原則だ。
安定している場所でも不意の落石に見舞われ、
バランスを崩す危険があるからだ。

(註)120cmのソウンスリングでセルフビレイ・スリングを作るとよい。

セルフビレイ・スリング
左:フィギャーエイトノット・オンナバイトで大小2コの輪を作る
右:大きい輪はセルフビレイ用、小さい輪には下降器具をセット
セルフビレイ・スリング

沢では灌木や岩を支点にすることが多い。
支点にはしっかり根を張った直径15cm以上の灌木や
安定で押しても容易に動かない岩を選ぶ。

岩を支点にする場合は岩角によるロープまたはスリングの剪断にも注意する。
ロープやスリングに岩角が擦れないようにするか、
やむを得ない場合はあて布をしたりテープで保護する。

回収する際のロープの滑りを考慮し、
ロープを支点に直接掛けるか、スリングを介して掛けるか判断する。

ロープの滑りが悪そうな場合、
スリングに捨てカラビナをセットすることもある。
この際、
カラビナのゲートが開いてロープが外れないように
テープをゲートに巻いておく。

上記の場合まるめのは、
カラビナの代わりに懸垂下降用リングを使っており、
常に1コか2コ携行するようにしている。

懸垂下降用リング
懸垂下降用リング

灌木を支点にする場合、
支点の強度を考えロープやスリングは出来るだけ根元近くにセットする。
もちろんスムーズにロープが回収できることを念頭にした上だ。

細い灌木しかない場合は灌木を数本まとめてスリングを掛ける。
または、細い灌木それぞれにスリングを掛け、
そのスリングにロープを通す。
各々のスリングをオーバーハンド・ノットでまとめてからロープを通してもよい。  
要は支点に架かる荷重を如何に分散するかだ。

下向きに生えた灌木を支点にする場合は、
プルージック・ヒッチでスリングの脱落を防ぐ。

細い灌木を支点にする場合
細い灌木を支点にする場合

スリングを残置したくない場合、
ロープと共にスリングを回収する方法(シェーズガンスなど)があるが
このブログでは触れない。

2. ロープのセット
余短を50cmほどとりロープ末端をオーバーハンドノットで結ぶ。
下降器具がロープ末端ですっぽ抜けるのを防ぐためだ。

末端を結ばない方が灌木などに絡みにくい場合がある。
結ぶか結ばないかはリーダーの判断だ。
原則末端は結束する。

投下した時に絡まないようロープをたたむ。
先導の小さな束と残りの束の二つに分け、
灌木や岩角に引っ掛からないよう着地点を狙って投下する。
水平方向へ投げるのが標準的な投下方法だが、
現場の状況によっては足元に落とす場合もあるだろう。
念のため投下前に「ロープダウン!」とコールする。

ロープの投下
ロープの投下

ロープを投下しないで、
最初に下る者が腰に束ねたロープを伸ばしながら下る方法もある。
この方法ならロープの絡みは確実に減らせる。
ただし、
懸垂下降に慣れている者がやらないと危険だ。

腰に束ねたロープを伸ばしながら下る
腰に束ねたロープを伸ばしながら下る

3. 下降
ロックカラビナを介して、
下降器具をセルフビレイ・スリングの小さいリングにセットする。
これにより、下降器具の支点が高くなり下降時の姿勢が安定する。
ザックが重い場合などは非常に有効だ。

懸垂下降の体勢をとり、
セルフビレイしたまま荷重を架けて支点の強度を確かめた後、
ロープを下降器具でグリップビレイする形で保持し、
セルフビレイを解除して下降を始める。

解除したセルフビレイ・スリングの大きい輪は、
下降中の妨げにならないようハーネスのラックに掛けておこう。

下降は余計な負荷を支点にかけないよう滑らかに。
落石などに注意しルートをよく観察しながら下る。

沢では落石、灌木や草付きの剥離など不確定要素が多いので、
最初に下る者がバックアップをとった方が良い場合がある。
下降器具の下でロープにオートブロックをセットし、
ハーネスのビレイリングにカラビナで連結する。

下降するときは、
ロープを右手で腰の辺りでしっかり保持し、
左手でオートブロックを軽く握りスライドさせる。
オートブロックを強く握ると、
いざというときにフリクションが効かなくなるので注意。

下降中に万が一両手をロープから離してしまっても、
オートブロックが効きロープを下へ引くことにより途中停止する。
オートブロックに架かっている荷重を抜けば再び下降を始められる。

2番目以降のバックアップに関しては状況に応じてリーダーが判断する。

オートブロックでバックアップ
オートブロックでバックアップ

標準的な仮固定の方法「ミュール・ノット」についても記しておこう。

ミュール・ノットは通常「ムンター・ミュール・ノット」と
ムンター・ヒッチと組み合わせで使われる、いわゆる巻き結びだ。

右利きの場合の手順は次のとおり。
(1)左手でグリップビレイして下降停止
(2)右手で下降器具のすぐ上のロープに沿って巻き結びを作る。
(3)結びの輪をカラビナを介してビレイ・リングに掛ける。

解除して再び下降する際は、
(1)グリップビレイで荷重を抜く。
(2)ビレイ・リングからカラビナを外しミュール・ノットを解く。
(3)懸垂下降の体勢をとり下降を再開する。

ミュール・ノット

ミュール・ノット

4. ロープ回収
最初に下った者は、
ロープの一端を引きスムーズに回収できことを確認する。
ロープの引きが悪い場合は上にいる者に支点の調整を指示する。

沢では水音で声が通りにくいことが多い。
予めホイッスルや単純なコールでの合図を決めておく。

(例)ピー、ピー、ピー(長いピー音繰り返し)⇒次の者下りてよし
   ピッピッピ(短いコール連続)⇒回収困難、ロープセットやり直し。
   ピーピ、ピーピ、ピーピ(長短コール組み合わせ)⇒ロープ再セット終了

最後の者が下りたら末端の結束を解きロープを引いて回収する。
回収の際、
ロープと共に岩、灌木や草付きが落ちてくることがあるので注意する。

懸垂下降ではロープの末端処理の有無やバックアップの有無など、
その場の状況に応じて判断すべき点が数多くある。
リーダーは場面に応じた最善の方法を冷静に判断しなければならない。

by まるめの

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